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ジョン・ブレンド・太郎の行方

 それから間もなくして、彼はホテルに来なくなった。
「どうたんだろう?」
 先代太郎君の所へも、来ていないという。
 独り暮らしの会長さんの所は、いつ行っても留守だった。
 近所の人たちも、お散歩の途中で会うたび「どうしたんだろう? まったく姿見ないねー」と心配している。

 1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、「交通事故にあった」とか「保健所に連れて行かれた」とかいろんな噂が流れてきて、私も、お父ちゃんもお母ちゃんも、みんなも、「死んじゃったのかな」とあきらめていたときである。

 豪邸の会長さんから、お母ちゃん宛に電話が入った。
 横浜からだという。
 お母ちゃんは、会長さんの名前を聞いても誰かわからず「あのー、すいません。いつお泊まりだったでしょか? 横浜のどちら様でしたでしょうか? もう一度お名前を」なんて、首をひねっている。
 しばらくして「あ、え~え~え~、その節はどぉーも」と、壁に向かって頭を下げている。
 ……やっとわかったのだ。

 お母ちゃんは、受話器を置いたとたん自信満々に言った。
「わかるわけないよねー。この会長さんとは、道ばたで会ってちょこっと話をしたことはあっても、名前までは聞いてないもの」
(いいえ、聞いてます。忘れただけですよ)。
「それに会長さんは無口で、ジョン・ブレンド・太郎にごはんをあげたとか、独り暮らしだとかしか話してないし」
(それも、違います。もっと貴重な話もいろいろしています)。

 会長さんはお散歩中、道ばたで偶然会ったとき、おしゃべりなお母ちゃんが一方的に話をした一小節に、このホテルの名前があったことを今、思い出し、心配しているだろうと、あわてて電話をしてきたのだ。

 会長さんは若いころ、亡くなった奥さんと2人で小さな会社を設立して、一生懸命、仕事一筋に生きてきたそうです。
 おかげで会社は大きくなり、一緒に仕事をこなしてきた2人の息子さんも経営学を身につけ、一人前になったことから会社を引き継がせ、会長さんは会社を引退し、伊豆高原の別荘で独り暮らしを始めたのです。

 今まで忙しくて出来なかった庭いじりや、読みたかった本を何冊も読み、好きなときに起きて、好きなときに寝る。掃除や洗濯も気が向いたときにやればいい。
 おなかがすいたら、近所のレストランで食事をしたり出前をとったりすればいい。「世の中に、こんなに充実した過ごし方があったのか?」と思ったそうです。

 ところが、別荘暮らしにもだいぶ慣れてきたころ、無性に寂しさを感じるようになり、その寂しさは、大きな孤独感となって会長さんに襲いかかったのです。
 最初のうちは、休みのたびに息子さん夫婦やお孫さんも遊びに来て楽しかったようだけど、仕事や勉強が忙しいという理由で、だんだん来なくなってしまったのだ。
 笑う相手もいない。話す相手もいない。
 そんな寂しい日々を過ごしていた会長さんの前に、ラッキーボーイが現れました。
 そう、それがジョン・ブレンド・太郎だったのです。

 ゴミ箱をあさっているところを会長さんに見つかり、いったんは逃げて行ったそうだけど、「おいで、おいで」と呼んで、食べ物を置いてやったら喜んで食べていたそうです。
 それからというもの、会長さんはそのわんこが来るのが楽しみで、お肉を焼いたりミルクを用意したりして待っていました。
 東京から呼んだ大工さんに立派な犬小屋を作らせ、動物病院でワクチンと狂犬病の注射も、ブレンドの名前で受けさせたそうです。

「若いころの俺はこうだったんだ」とか、「ばーさんが生きていたら、こんなに寂しくなかったのに」とか、ジョン・ブレンド・太郎には、なんでも話しかけながらお酒を飲んでいたそうです。
 今まで、会社や家庭で強い人と言われていた会長さんも、人前では見せられなかった涙を犬前では見せることが出来たんだって。
 そして、いつの間にか、この聞き上手のジョン・ブレンド・太郎君と離れることが出来なくなってしまったそうなんです。

 横浜に引っ越したのは、日に日に元気がなくなってきている会長さんを心配して、急遽、息子さんが迎えに来たということなのですが、ジョン・ブレンド・太郎君と楽しく過ごしている会長さんの姿を見て、ぜひ一緒にと連れて行ったそうなんです。
 会長さんが、横浜の息子さんと一緒に暮らすことを嫌がっていたのは、息子さんのお嫁さんと仲があまり良くなかったからだったけど、ジョン・ブレンド・太郎君のおかげで、にぎやかな楽しい家庭になったと喜んでいました。

 頑固で厳しい会長さんも、口うるさくなくなったんだよね。きっと……。
 息子さんもお嫁さんもお孫さんも、「わんこ一匹で、こんなに楽しくなるのなら、もっと早く飼えば良かったね」と言っているそうです。

 そんなわけで、ジョン・ブレンド・太郎君も会長さんの家族もみ~んな幸せになり、めでたし、めでたしのお話でした。(おわり)


 次回から、わんこ愛情物語第2部「ゆうれい犬さんのお願い」です。お楽しみに。

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ジョンの秘密

「ジョン元気だったか? よしよし、いい子だ。ジョンお土産持ってきたぞ」
 お馴染みさんで、いつもお泊まりに来てくれる、ゴールデンのラッキーちゃんのパパが、本皮で立派な首輪とリードをジョンに付けている。

 ホテルに来るようになって約半年、ジョンはすっかりお客様の人気者になっていた。おしりの怪我も良くなり、ボロボロだった毛並みもつやつやで、身体もがっちりしてきて、どこから見ても立派なミックス犬に生まれ変わっていた。
 ただ長い間、放浪生活をしていたせいか、繋がれることが大嫌い! 繋ぐと1日中吠えて、近所の方やお客様にも迷惑をかけてしまう。
 お母ちゃんも、「保健所に連れて行かれるのが心配だから」と何回か繋いでみたけど、結局あきらめてしまった。

 ラッキーちゃんのパパは、新しく付けたリードを持ち「ちょっと、お散歩に行ってきます」と、まるで自分ちのわんこのように連れて行った。
 ラッキーちゃんのパパの足元で、嬉しそうにピョンピョン飛び回り、ちぎれるほどにしっぽを振るジョン……すごく嬉しそうだ。

 1時間くらいたって、「ただいまー」と息を切らして、ラッキーちゃんのパパとジョン君が帰ってきた。
「おかえんなさーい」庭で遊んでいた他のお客様も、にこやかに2人の帰りを迎えてくれた。

「ワンワン、ワンワン、クゥーンワン(ジョン君おかえんなさい。お散歩どうだった? 楽しかった?)」
「ハァハァハァハ、すごく楽しかったよ。久しぶりに大室山や桜の里に行って思いっきり走って、やっぱりあの場所は最高だよ。ポーちゃんもときどき行くよね」
「うん。私も、あの場所が一番好きなんだ。思いっきり駆けっこしても車は来ないし、お父ちゃんもお母ちゃんも気に入っているみたい。ただジョン君みたく、走っては行かないけどね」
「じぁー車で行くの?」
「うん。車のときもあるけど、お母ちゃんに抱っこのときもあるよ」
「えー、抱っこじゃお散歩にならないじゃん。ポーちゃん甘えんぼさんだからな」
「ちょっとだけね」
 ジョン君は、おいしそうに水を飲みながら、他のわんこに出会ったこととか、ラッキーちゃんのパパとボール遊びしたとか、嬉しそうに話をしている。

 体育系の、体力がありそうなラッキーちゃんのパパだけど、「ふぅー疲れた。一緒に大室山まで走って行ったけど、けっこうあの坂道はきついねー」と言いながら汗をぬぐい、
「ところでポーちゃんのママ。この子は近所でもごはんを貰って可愛いがられているみたいですよ。たまたま道で会ったおばあさんとおじいさんなんですが、不思議そうにこちらを見ているので何かな? と思っていたら、声をかけてきましてね。いろいろお話しを聞きましたら、この子の面倒をみているそうなんですよ。最初は犬違いかな? と思ったのですが、この子がしっぽを振って行くものですから、間違いないと思いましてね。いやー、驚きましたよ」
 と言いながら、ペットボトルの水をゴクゴクゴクと飲み干す。

 ジョン君の頭を撫でながら「名前は太郎。なぁー、お前は太郎だったんだよなぁー。半年くらい前に迷い込んで来て、可哀想だからとごはんをあげているうちに惰が移ってしまって、飼うことにしたそうなんですよ。ただ、繋がれるとワンワン、ワンワン(いやだよー自由にしてよー)と泣くから放しているらしいですが、夕方になるとトコトコ帰って来て、前に亡くなったわんこの家で寝泊まりしているそうなんですよ。このまま引き渡した方がいいのかな? とも思ったんですが、勝手に渡してポーちゃんのママにがっかりされても嫌だから、とりあえずここのホテルに連絡してくださいって言っておきましたよ」
 お母ちゃんは、「そうですか。飼い主さんが他にもいたんだ。名前は太郎か、良かったね」と、嬉しいような悲しいような表情でジョン君を見ている。

 私もラッキーちゃんのパパの話に驚いて、「ジョン君、2軒もお家行ったり来たりしてんの?」と聞くと、ジョン君は得意そうな顔をして「違うよ、3軒だよ」と答えた。
「さ、3軒!」

「そぉ、3軒。1軒はラッキーちゃんのパパがさっき話していた、このすぐ近くに住んでいる、ふたり暮らしのおじいちゃんとおばあちゃんのとこ。大きな家で、広い芝生の庭があって、僕が寝る家もあるんだ。前のわんこのお下がりみたいだけどフカフカの毛布を敷いてくれて、とっても寝心地いいんだ」
「へえー、いいとこなんだね」
「おじいちゃんもおばあちゃんも、とっても優しくしてくれるから、一生懸命甘えて恩返ししているんだ」
「優しい人で良かったね。それで、そのおじいちゃんとおばあちゃんが太郎君って名前を付けてくれたんだね」
「うん、前に飼っていたわんこの名前なんだって。12年くらい一緒に暮らして天国に行ったそうだけど、僕と同じ野良犬だったから、実際の歳はわかんないみたい。おじいちゃんとおばあちゃんは、あのときの悲しみを二度と味わいたくないから、もう犬は飼わないって決めたらしいんだけどね。僕がトコトコ行っちゃったから……」

「よっぽど可愛がっていたんだね。先代の太郎君を」
「そうだね。3年も前に死んじゃったのに、部屋にはね、先代太郎君が使っていた食器とかおもちゃとかが大切にしまってあって、写真もいっぱい貼ってあるんだ。僕と先代の太郎君が似ているせいか、今じゃ太郎、太郎って……。家の中までおいで、おいでって言ってくれるんだ。ただ、僕は今までが外の暮らしだったから、おしっこのときはおじいちゃんをワンワンワン、フウーン、キャンキャン(早く外に出してーもれちゃうよー)って起こさなければならなくて、大変なんだよ。先代の太郎君はおしっこシートでやってたようなんだけど、僕は苦手なんだ」
「ふぅーん。慣れないとだめなのかなー。私は、お庭でもおしっこシートでもどっちでも大丈夫だけど、ただうんちのときは、あまり見られたくないね」
「あははは……ポーちゃんでも恥ずかしいことあるんだね」
「あははは……って何よ。真剣にお話を開いてあげてるのに!」

「ごめんごめん。でも、やっぱり家の中はいいよ。家の中はあったかいし、いつも頭を撫でてくれる、おじいちゃんとおばあちゃんがいるんだもん。僕たちわんこは、いつでも人間が側にいてくれるだけいい、それだけで、幸せなんだよなー」
「私も、お母ちゃんがいないと全然だめなの。ごはんもおやつも食べたくなくなっちゃうし、ゆっくりお昼寝も出来ないんだ。ときどきおばあちゃんにお子守りしてもらうけど、私はお母ちゃんっ子だから、いないとすぐ、いじけちゃうんだ」
「ポーちゃんやポーちゃんの妹たちは、朝から晩まで1日中家族と一緒なんだから、恵まれているよ……」

「ところでジョン太郎君、もう1軒のお家はどこなの?」
「ジョン太郎はないだろう」
「だって、どう呼んだらいいかわかんないもの」
「ポーちゃんと話しているときには、ジョンでいいよ」

「じゃージョン君。もうひとつの名前を付けてくれた人はどんな人?」
「えっへん。お答え致します。そのお方は、某会社の元社長さん。で、今は会長さん」
「あっわかった! 会長さんて、ゴミがどうのこうのとか、わんこがうるさいから静にさせろって文句ばっかり言ってくる、あの嫌なおじちゃんだ。私、嫌いだなぁー」
「違います。それは町内会長さん。僕が言っているのは、会社の偉い会長さん。会社の名前を言えば人間界ではみんな知っている、すごい人なんだって」
「あっそうなの……そうだよね。あの怖いおじちゃんがジョン君の面倒見てくれるわけないものね。わんこ嫌いだから。でも、またまたリッチなお家っぽいね」

「そう、実はすごい豪邸なんだ。もともと犬は飼ったことなかったらしいんだけど、僕が勝手口のゴミ箱をあさっていたら、夕食の残りを「さぁーお食べ」と出してくれたんだ。ステーキにお刺し身、伊勢海老や焼き魚と、豪華な食事でびっくりしちゃったよ。ポーちゃんのママはカリカリとか缶詰で、太郎君のおじいちゃんとおばあちゃんは煮物とかごはんにみそ汁。それはそれで美味しいけど、ステーキなんて食べたことなかったから、あわてて食べて喉に詰まらせちゃったよ」
「ステーキねー、私はあんまり好きじゃないけど、妹たちは大好きだものね。ときどきお客様の残り物をレストランのお兄ちゃんが持って来ると、妹たちはお座りしていい子で待っているものね。あの匂いがたまんないみたい。クンクン、クンクン(おいしそう、おいしそう)ってね。ちなみに私は納豆ごはんが大好きだけど、お母ちゃんが食べた後、お口の周りが大変なことになるーって言ってくれないんだ。それと、もっと好きなのが自動販売機で売っている缶コーヒー。お母ちゃんがいつも飲んでるから、私も好きになっちゃったの。お母ちゃんが100円玉をチャリンチャリンて持ったら、アゥーワンワンワンワンワンワン(やったー、コーヒーコーヒーコーヒー)って、つい騒いじゃう」

 ※本当は人間が食べる物や、飲む物を与えてはいけないのです……母より

「変わった物が好きなんだね、ポーちゃんは……。そうだ! コーヒーって言えば、そこの家では僕、ブレンドって呼ばれているんだ」
「ブレンド? ブレンドって、どんな意味があるのかなぁー?」
「ブレンドって、いろいろなコーヒー豆を混ぜ合わせた物とかを言ったりするんだよ。このごろ、僕たちみたいな雑種はミックス犬って言うだろう。それと同じ感じかな」
「よくわかんないけど、カッコイーね」
「僕も雑種って言われるよりブレンドの方が、なんとなく格が上がったようで好きなんだ」

「豪邸のおじちゃんもいい人みたいで、ジョン・ブレンド・太郎君も幸せだね」
「ああ、幸せだよ。半年前の僕を考えたら最高に幸せだよ。まるで夢を見ているみたいだ。それにしてもジョン・ブレンド・太郎か、なんか洋犬みたいな名前で照れちゃうな」
「私もお母ちゃんたちに助けて貰わなかったら、もう、この世にいなかったと思うけど、ジョン・ブレンド・太郎君も、いろんな人にお世話になって生きているんだね」
「ああ……そうだね」

 昔のことを思い出しているのか、今の幸せを噛み締めているのか、ジョン・ブレンド・太郎君の姿が、大きくも小さくも見えた。

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お父ちゃん助けてー

1ヶ月くらい前になるでしょうか……。
 その日は、連休とあってホテルも満室。
 たくさんのお客様とわんちゃんが、お泊まりに来たときのことです。

 夕食後、わんちゃんコミュニケーション広場で、「こんにちわんこ」、「私、ポーちゃんよろしくね」などと挨拶をしたり、ダックスちゃんやコーギーちゃんと遊んだりしているときでした。
 カウンターのところに、パパとママに連れられてハスキーちゃんがおとなしく座っていたのです。

 他のわんこが「ワンワン、キャンキャン」言おうとも、ジィーッとしていて動かなかったハスキーちゃん。
 私は、どんな子でも仲良しさんになれると思っていたので、
「ねぇー、一緒に遊ぼうよ」
 とハスキーちゃんに向かって、一直線に走って行ったのです。

 ところが、あのおとなしそうで優しそうなハスキーちゃんが、いきなり私の首元をくわえ、振り回したのです。
「キャイン、キャイン、キャイーン(お父ちゃん助けてー、お母ちゃん痛いよー)」

 私はこの突然の出来事に、痛さと怖さで身体がブルブル震え、逃げることも出来ずハスキーちゃんの口にぶらさがったまま、大きな声で叫んでいました。
 私の泣き声を聞いてすっ飛んで来たお父ちゃんは、「ヤメロー」と叫びながら、右手でハスキーちゃんの目をふさぎ、左手を口の中に突っ込み私を助けてくれたのです。

 驚いたハスキーちゃんのパパとママは、あわてて首輪をつかみ「大丈夫ですか? 怪我しなかったですか?」と心配そうに覗き込み、「こんなこと、初めてなんです。今までわんちゃんや人に噛み付いたことなど一度もなかったのに、どぉーしちゃったんだろう。すみません。本当にすみません」と謝りながら、ハスキーちゃんの頭にゲンコを何回もしている。

「いやー叱らないでください。本気で噛み付いたらポチは今ごろ、天国ですよ。ヒラヒラの洋服着て、ちょこちょこ走っていたからおもちゃと勘違いしたんですよ。リードを付けて、おとなしく座っていたこの子にポチの方から寄って行ったのですから、こちらが悪いんです。気にしないでください。かえって申しわけないと思っています。すいませんでした」
 と、お父ちゃんも頭を下げた。
 私を抱きかかえるお父ちゃんの手は、ハスキーちゃんの鋭い歯にあたって切れたのか、たくさんの血が噴き出ている。

 コミュニケーション広場にいたお客様たちも、お父ちゃんの血を見て危険をさらに感じたのか、あっちこっちで遊んでいた子供たちをあわてて抱き上げ、「大丈夫ですか? 噛まれたんですか? 病院に行った方がいいですよ」、「あの子に噛まれたんですか? 怖いですねー」などと言いながら、お父ちゃんの周りに集まって来た。

 ハスキーちゃんは、いきなり目をふさがれたり口を開けられたり、パパとママに叩かれたり、何がなんだかわからないまま「フゥウゥ~ン(ごめんなさい)」とうなだれている。
 さっきまでぎゃーぎゃー騒いでいたお母ちゃんも、お父ちゃんの腕に抱かれている私を見て少しは我を取り戻したのか、「お騒がせしてすみません」と言いながら、私を抱えてコミュニケーションルームを後にした。

 お部屋に帰っても、お母ちゃんの心臓音のバクバクと私の全身のブルブルは止まらない。まるで館内中に広がっているような大鼓動。
「ポーちゃん、どこか痛くない? 大丈夫? ここ? ここ? ここ痛いの?」
 と、あっちこっち触っては、
「神様、仏様、大黒様? 犬神様?……ポーちゃんを助けてくれて、ありがとうございます」
 とお祈りをしている。
 いったいお母ちゃんには、何人の神様がいるんだろうか?
 それに、助けてくれたのは神様じゃなくお父ちゃんなのに、なんでお父ちゃんの名前が出ないんだろう?

 幸い優しく噛まれた私はかすり傷程度で、動物病院に1回行っただけですんだのですが、お父ちゃんの手はグローブみたいに腫れあがり、長い間、人間の病院に通うこととなりました。
 お母ちゃんは「キャッチボールしようか? お父ちゃんおっきいミット持っているからキャッチャーね」などとからかっているけど、あの日以来、お父ちゃんにすごーく優しくなったような気がします。
 晩酌のおかずも豪華になったよね、お父ちゃん。

 そんなこんなで、社交的な私が大きなわんこに近付くと、あのときのショックを思い出してしまうのか、すぐ抱きかかえてしまうお母ちゃん。だから、このわんちゃんにも警戒しているんだと思います。

 わんちゃんは、ちょっとした物音や他の人が通るたびビクビクと身体を動かすけど、ガツガツガツ、ガツガツガツと、お母さんが持って来たごはんをおいしそうに食べている。
「よっぽどお腹がすいていたんだね」
 山盛りにあったドックフードを1粒も残さず食べ、大きめの器になみなみ入っていたお水も全部飲み干し、満足そうな顔でお母ちゃんを見上げている。

「おなかいっぱいになった?」
 お母ちゃんが声をかけると「くぅーん(ありがとう)」と言って、しっぽを振りながらゆっくり近付いてきた。
 お母ちゃんが手の匂いを嗅がせて、そーっと頭を撫でると、幸せそうな顔と優しくなった目に、涙がいっぱい浮かんでいるように見えた。
「困ったわね。うちには大勢の子供たちもいるし、男の子だからお客様の子と喧嘩するかもしれない。かといってこのままでは可哀想だし、どうしたらいいんだろう?」
 お母ちゃんの悩みは、当分続くのであった。

 しばらくしてわんこは、トコトコと寂しそうな背中を向けながら、大室山の方へと消えて行った。

 それからというもの、毎日お昼ごろになるとごはんを食べに来ては、フェンスから妹たちが遊んでいるのをしばし眺めて帰るという、優雅な日々? が続いた。
 妹たちも「ワンワンワン(怪しい奴だ)」と吠えるのをやめ、しっぽを振りながら「フウーンフウーン、フウ~ン(こっちに来て遊ぼうよ)」と、少しずつ仲良しさんになってきた。

 あの子が来るようになって何日くらいたったころだろう。いつものように遊びに来てごはんを食べていると、
「あっそうだ! 名前を付けてあげなきゃ。いつまでも名無しじゃ可哀想だもんね」
 と、お母ちゃんは腕を組みながらわんこを見ている。
「何がいいかなぁー」と真剣に考え始めたかと思ったら、「ジョンでいいか! そうだジョンにしよう」と1分もかからず決めてしまった。

 まっ、私たち姉妹の名前を聞いてもらえばわかると思いますが、しりとりになっていたり、今、話題になっている人物の名前だったり、私のように、猫ならタマ、犬ならポチという考えで、女の子にもかかわらずポチなんてつけられてしまったのですから……。
 ジョンという名前は、良い方じゃないのかなぁー。

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妹たちとの出逢い

捨て犬といえば、今、楽しそうに遊んでいる私の妹たち4人も、3年前の12月の末、城ヶ崎海岸のゴミステーションの中に、ダンボール箱に入れられ、捨てられていたんだ。目がやっと開いてよちよち歩きの一番可愛いころなのに、お母ちゃんのおっぱいが一番欲しいときなのに、ひどいよね。

 捨てた人は、なんとも思わないのかな?
 生き物をゴミと一緒に捨てて、辛くないのかな?
 妹たちは、ガムテープでぐるぐる巻きにされた狭い箱の中で、どんなに苦しく、どんなに寒く、どんなに悲しかったことか。

 市役所のゴミを回収するお兄さんが発見したそうなんだけど(箱の中で泣き声が聞こえたそうです。危機一髪! お兄さんも驚いたそうです)、結局、安楽死を選択されて、動物病院に連れて来られたんだ。
 ダンボール箱のまま動物病院に置いていかれて死を待つばかりだったけど、そこは! 私のかかりつけの優しい先生のこと、安楽死なんてとんでもない。
 一生懸命、新しい飼い主さんを探していました。

 その日、運良く? 神様が私の前足に怪我をさせたのです。
 お父ちゃんとお母ちゃんの足を動物病院まで向けさせ、4人に逢わせたかったのでしょうか?
 お父ちゃんとお母ちゃんは神様の計画どおり、怪我した私を抱えて動物病院まですっ飛んで行きました(日ごろ、鬼と言われるほど強いお母ちゃんも、私のこととなるとメソメソ、ギャアギャア、オロオロ、まるっきりダメになってしまうんです)。

 案の定「先生! ポーちゃんが、ポーちゃんが大変なんです」と大騒ぎ。
 待合室で待っていたお客さんも、私を抱きかかえ目も鼻もグジュグジュのお母ちゃんの様子を見て、「お先にどうぞ、すぐ診て貰った方がいいですよ」と心配してくれている(あーあ、悪いよー。爪がちょっと折れただけなのに、順番まで替わってもらって、にゃんこのママ、ごめんなさい)。

 お母ちゃんの大騒ぎは、先生も受付のお姉さんもよく御存じ。いつも言う言葉は「お母さん落ち着いて、大丈夫ですから安心して座って待っててください」。
 どんな小さな傷でもオロオロしてしまうお母ちゃんの扱い方は、お父ちゃんより上手かもしれない。
 この先生の「大丈夫!」の一言で、手のブルブルもピタリと止まるから不思議?

 私のキズは、先生のお薬チョンチョンと包帯ぐるぐる巻きですぐ終り、お母ちゃんが「あー軽い怪我で良かった。先生ありがとうございました」と帰ろうとしたとき、「クーンクーンクーン、キャンキャンキャン」と、にぎやかな合唱が、待合室の片隅に置いてあるダンボール箱の中から聞こえてきたのです。

 覗いてみると、生まれて間もないヨチヨチ歩きの子犬たちだった。
 ベージュの子と白い子は、元気にじゃれあって遊んでいる。
 黒い子は、その下敷きになって必死にもがいていた。
 茶色の一番ちっちゃい子は、ダンボール箱の隅でタオルをかじっている。
「うっわー……かわいぃ~」
 お父ちゃんもお母ちゃんも、ダンボール箱の側に座り込みニッコニッコ顔……釘付けになっている。

「どうしたんですか? この子たち」
 先生は「可愛いでしょう。ちょっと抱いてみませんか?」と、これまたニッコニッコ顔。
 私はあわてて「ウーワンワン、ワンワンワン、フウーンフウーンクーンクーン(あーだめだめ。抱っこしたら大変だよー)」と忠告をしたのですが間に合わず、お父ちゃんが白と黒の子犬たち、お母ちゃんが茶色とベージュの子犬たちと、2人づつを両手で抱えてしまったのです。

 キズのわりには、ちょっとおおげさかな? と思うほど、包帯をぐるぐる巻きにされた私が、「ワンワン、ワンワン、クゥーンクゥーン(やめてよー、そんな子、抱っこしないでー)」と必死で訴えているのに、
「ポーちゃんいけない。この子たちが怖がっているでしょう」
 なんて、冷たいお言葉。
「さっきまでの心配は、どこに行っちゃたのぉー」
(独りいじける私だった……クゥ~ン)。

 子犬たちの無邪気な姿、可哀想な生い立ち、そして先生の「雑種はなかなか貰い手がいないんですよ」と、きわめつけの一言。
 お父ちゃんとお母ちゃんは、まるで金縛りにあったかのように、その場を動くことが出来なかったようです。

 しばらく沈黙が続き、お父ちゃんが口を開いた。
「この子たち、うちでみんな引き取らせてください。責任を持って大切に育てますので」
 先生の目をしっかり見つめた、その迷いのない言葉に「えっ」と驚いたのは、お母ちゃんだった。
「全員? この子たちみ・ん・な……」
「そりゃーそうだよ。この中から1人選べっていったって無理だろう。見てみろ。こんな幼いのに必死で生きようとしているじゃないか。これもまた何かの縁だから、頑張って俺たちで育てていこう」
 と、まるで映画のような台詞を、目を輝かせて言った。

 そうなんです。
 この日から私は、5人姉妹の長女に一気になってしまったのです。
 この後、お母ちゃんの育児ノイローゼや、ご近所とのトラブル、脱走事件や、病院いやいや事件など、数えきれない出来事がいろいろありました。

 あれから3年。
 4人の妹は大きな病気ひとつせず、私の10倍以上の大きさまですくすくと育ち、今ではお客様接待係として立派? に毎日の仕事をこなしてくれています。
 あっ、そうだ! ついでに妹たちを紹介しておきますね。

 まずは、甘え上手のチコちゃん……犬種は? と聞かれるとラブラドールに似ていてちょっと小さいので、チビラドールと呼ばれています。お客様が来ると、すぐ飛んで行って愛想をふりまきます(ただし人間だけ)。一番おとなしそうですが、怒ると一番貫禄があります(なんで1人だけ、お手とかタッチとか出来るのかなぁー)。

 ごはんとしゃべるコロちゃん……しっぽと耳のところの毛がフサフサで、1人だけお嬢様って感じ。すごく美人です(私には勝てないけど)。お父ちゃん子で、いつも側にくっついています (勝利のおたけび「ウォォー」が珍しいと言われます)。

 おとぼけロクちゃん……いつも1人だけ行動が違う。耳が非常に大きく、けっして美人ではないけど、私が他のわんこにいじめられそうになると、すぐ飛んで来て助けてくれます(いつもありがとう)。それから、お母ちゃんのハーモニカ演奏で歌を唄います(……機嫌がいいときのみ)。

 怖がりクロちゃん……見かけは甲斐犬のようで強そうだけど、ものすごく臆病。 だから「がいけん」と呼んでいます。ただガムとか豚の耳には執着心があって、絶対に取られません(お母ちゃんに甘えて来たとき、「ガウー」っていつもやってごめんね)。

 さて、この性格いろいろの妹たちも、フェンスから不審犬が覗いているとなれば大変。
 団結力を発揮し、大きなわんこに向かって「ギャンギャンギャンギャン(怪しい奴だ!!)、ワンワンワンワン(こっちに来るなぁー)」と決死の形相で騒いでいる(フェンスがないと、おとなしくなってしまうのだが)。

 長女である私は「ウゥーキャンキャン、キャンキャン、ワンワンワンワンワン(もう、ウッサイなぁー、お母ちゃんに静かにしなさいって言われたばっかじゃん!!)」と、妹たちに注意をしてあげた。
 なのになぜ? ドックフードを抱えて戻って来たお母ちゃんに、「ポーちゃんまでワンワンしちゃいけないでしょ」と叱られてしまった。

「なんで私が怒られなくちゃいけないの? あんたたちのせいだからね」
 ちょっとむくれた私は、怒られる原因を作った侵入者に文句を言おうと近付いて行った。
 と、そのとき「あっ、ポーちゃんいけない!」

 お母ちゃんはあわてて私を抱き上げ、「危ないでしょ」と青い顔をして言った。
「いきなり側に行って、噛み付かれでもしたらどうすんの。この前だって危機一髪だったでしょう。あのときはお父ちゃんが助けてくれたから良かったものの……あー、今思っても、恐ろしくて鳥肌立っちゃう。ポーちゃんみたく小さい子は、大きな子に本気で噛まれたらひとたまりもないし、噛んだ子も大変なことになってしまうからね。この子もきっといい子だと思うけど、もしかしたら捨てられて人間不信やわんこ不信になっているかもしれないし、まして怪我をしたわんこは、精神的にも肉体的にも通常じゃないから、いきなりガブッなんてこともあるんだから……ポーちゃん気を付けなきゃだめだよ」
「うん、ごめんなさい。この前ハスキーちゃんに振り回されたとき、すごく怖かったもん」
「そうよー。人間だって機嫌の悪いときもあるし、わんこだってイライラすることもあるからね」
「うん。わかった。これから気を付けるようにするよ」……。

 お母ちゃんが、私に大きいわんこが近付くと、警戒心を持つようになってしまったのは、あの事件があってからなのです。

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私、ポーちゃん

このお話は、マルチーズのポチが多くの動物たちと出逢い、その動物たちをとおして泣いたり笑ったり、ときには小さな身体で、必死に怒ったり、逃げたり、なぐさめたりする「わんこ愛情物語」でございます。
 なお、今後のお話をわかりやすくするため、まずは自己紹介をさせていただきます。

 私の名前はポチ、マルチーズの女の子
 3月8日生まれの5歳
 体重……2kg
 血液型……わかんない
 趣味……お母ちゃんに抱っこされてお昼寝
 好きなこと……お母ちゃんと一緒にいること
 嫌いなこと……お留守番、カミナリ、花火、動物病院
 通称……ポーちゃんって呼ばれています

 現在、ペットと泊るプチホテルの代表取締られ役専務秘書。
 毎日、専務(私のお母ちゃんです)のご機嫌が良くなるよう、甘えたり、我がまま言ってすねてみたり、けっこう忙しく過ごしています。
 生まれたときは未熟児で、今でも他の子と比べると「ちっちゃーい」って言われるけど、よく食べるし、よく吠えるし、すごく元気です。

 私には、ミックス犬のチコちゃん、コロちゃん、ロクちゃん、クロちゃんの妹4人と、見かけはおとなしそうだけど、とてもやんちゃなシーズー犬の妹ロンちゃん、犬のような性格の猫、みぁーくんと次郎ちゃん(もう、15歳くらいです)、そして、最近お父ちゃんが道ばたで保護してきた、ちょっと汚く、ちょっと老け顔でワンワン、キャンキャンにぎやかな、弟の宗雄君がいます(年齢不詳ですが、たぶん年下だと思います)。

 宗雄君はすごく凶暴で、機嫌が悪いと誰にでもすぐ噛み付くんです。
 お父ちゃんとお母ちゃんは、いっつも噛み付かれて、手とか足とか血だらけになっているのに「いい子だ、いい子だ、宗雄君は本当にいい子だ」ってほめている。何かヘンだと思いませんか……?

 まっ、そんなこんなで、いつの間にか多人数になっちゃったけど、近所では有名な幸せ家族です。

お父ちゃんとお母ちゃんとの出逢い

 私がお父ちゃんとお母ちゃんの子供になったのは、1歳と3ヶ月のとき。
 前の飼い主さんが「もう、いらないから」と言って、ペットショップに返されたんだ。
 悲しかったけど、ずーっとサークルの中だったし、おしっこやうんちをすると叩かれたし、正直言って、ペットショップに戻されてホッとしていた。

 でもホッとしたのは、ほんの少しの間だけ……。
 ペットショップのお姉さんも私の値段を下げたり、「この子はおとなしくていい子よ」と言っていろいろな人にすすめてくれたんだけれど、やっぱり1歳を過ぎた私を引き取ってくれる人はなかなかいなかったの。

 サークルのお友達は、次々に優しそうなパパやママに抱かれて、幸せそうに甘えながら去って行く。
 張り紙も、とうとう「マルチーズ無料で差し上げます」になり、ペットショップのお姉さんも「この子はもう処分ね」「困ったわねー、維持費もばかにならないのよ」と言って、扱い方もだんだん冷たくなってきました。
 おしっこシートは新聞紙に替わり、ご飯も安いドッグフードになり、サークルも一番小さく、さび付いた汚い物に替えられました。

 そんな時、ガラス越しにジーッと見つめる女の人がいたのです。
 私は、しっぽを振って「クーンクーン、私を連れて行って」と一生懸命訴えました。「もしかして、こんどのお母ちゃん?」と思ったとき、その女の人は私を見てニコッとほほ笑み、ペットショップのお姉さんに何かを言って帰ってしまった。

 すごく悲しかった、すごく寂しかった。涙が出てきた。
 今日も、またこのサークルの中で独りぼっちなんだ。
 夜になると、暗いし、寒いし、いやだよー……。
 すこーしだけ覚えている、本当のお母ちゃんの温もりが恋しい。
 身体をペろペろしてくれた、あの優しかったお母ちゃんに逢いたい。
 甘えたい……。

 いつの間にか私は、泣きながら寝てしまったの。
 それから、どのくらいの時間がたったのかな?
 優しく身体を撫でられ、暖かい温もりが全身に伝わり、心地良い感触で目を覚ました私は、さっきの女の人に抱かれていたのです。
 そう、それが今のお母ちゃんとの出逢いだったのです。もちろん、その横には優しいお父ちゃんもいました。

 お父ちゃんとお母ちゃんは、そのペットショップでたくさんのお買い物をし、私をふかふかのマフラーでくるみ「さあ、今日から私たちの子供だよ」と言ってチュッとキスをし、ジーッと私を見つめていました。
 よく見ると、お父ちゃんとお母ちゃんの目には涙がいっぱいあふれていて、なんだかわからないけど、私まで悲しくなってしまいました。

 私がお母ちゃんの涙をペロペロしていると、「今まで苦労してきたんだね。これからは、いっぱいわがままを言って、いっぱい遊ぼうね。うんと幸せにするからね」とお母ちゃんは言って、お父ちゃんの背中に顔を付けて、ゴシゴシと涙と鼻水をふいていました。

 後から聞いてわかったんだけど、お父ちゃんとお母ちゃんは、私と一緒にサークルの中にいた、ちっちゃくて、一番可愛いヨークシャテリアの男の子を飼う予定だったんだって。
 でも、私がもうすぐ処分されると聞いて、あわてて変更したんだって。
 あのときニコッとほほ笑んだのは、「待っててね」の意味だったんだね。
 良かった……。

 あれから4年。
 優しいお父ちゃんと、しつこいくらい愛してくれるお母ちゃん。そして、いつもいい子いい子してくれるおばあちゃん。
 ホテルのスタッフの人たちも「ポーちゃん、ポーちゃん」と可愛がってくれるし、お客様もおやつを買ってきてくれたり、お洋服を作ってくれたり、とても嬉しいです。
 もっとも、一番喜んでいるのはお母ちゃんかもしれないけど。
 とにかく、私はいい人ばっかりに囲まれて最高に幸せです。

 ホテルにはいろいろなお客様や、わんちゃん猫ちゃんたちがいっぱいお泊まりに来ます。
 私のように「面倒見るのが大変だから」と言って、ペットショップに返された子。
 山の中にロープで繋がれて、捨てられていた子。
 殴られたり蹴られたり、ごはんを貰えなかったり、死ぬ一歩手前で保護された子。
 もちろん、生まれたときから、優しいパパやママの愛情で育てられた幸せな子も、いっぱいいます。

 そんなお友だちから聞いたお話しです。

野良犬・捨て犬・拾い犬


黄色い綺麗なタンポポさんが、緑の芝生からヒョッコリ顔を出し、「おはよう。今日もいいお天気ね」「ぽかぽかで、気持ちいいねー」と、大空を優雅に飛び回る蝶々さんとお話しをしている。

 ここは、私のお父ちゃんとお母ちゃんがお仕事をしているプチホテルの庭。
 お客様のチェックアウトがすむと、やっと私たちが思いっきり遊べる楽しい時間がやってきます。

 お母ちゃんの「皆様、大変長らくお待たせ致しました。ただいまより、お庭にGOの時間がやって参りました。よぉぉぉぉーいドン」と、みょーにかしこまったアナウンスによって、私たち姉妹は「ワンワンワンワン(待ってました!)」といっせいに部屋から庭へと飛び出します。
 まずはおしっこしてからうんちをする、それから、みんなで遊んでお水を飲む、またまた遊んでおしっこしてから、また遊ぶ……エンドレス。

 お母ちゃんは「1個、2個……7個と、よーし、これで全員OK」と、みんなのうんちを拾い集め、健康チェックをしてからコーヒータイムに入る。
 この日は、抜け毛が多いチコちゃんと、猫のみぁーくんのブラッシングをしながらコーヒーを飲んでいる(周りの人は「コーヒーに毛が入ってしまう」と心配してくれますが、お母ちゃんは平気で飲んでいます)。

 私は、「にゃ~ご」とすり寄るみぁーくんが嫌いなので(だって、私よりう~んとおっきいし、すりすりされると飛んで行っちゃうんだもの)、お掃除部隊のお姉さんたちに挨拶? しながら客室点検をしていたんです。
「他の子のおしっこの匂いはありませんか? もし、あったら許しません。私のおしっこで、匂いを消してみせます」


 ※いわゆるマーキングのことです。女の子でもするんですね……母より

「ポーちゃん……いけないよ」かすかに、お母ちゃんの声が聞こえたような聞こえないような……と、そのとき、
「コラーッ」
「誰っ……なんでこんなことするの!!」
「いけないって言ったでしょう!!」
「ロクゥー、コロー、えーと、それから……あとみんなぁー」
 近くの大室山が、びっくりして噴火してしまいそうな大きな声を張り上げながら、お母ちゃんが妹たちを追いかけている。
「何怒っているんだろ……お母ちゃん」

 ふと見ると、おばあちゃんが大切にしている花壇の中が、ものの見事にグチャグチャになっている。

「あーあ、もうすぐきれいなお花がいっぱい咲くのに、おばあちゃんに叱られたってしらないよ」
 妹たちは、お母ちゃんの雷がなんで落ちたかわからない様子。
 それどころか、お母ちゃんに追いかけられているのが楽しいとみえて、嬉しそうに走り回り、お母ちゃんもいつの間にか、
「まてまてー、クロまてー、コロちゃん、ちゅかまえるぞー鬼さんだじょー」
 なんて言いながら、喜んで遊んでいる。
「だめだこりゃ」……。

 しばらくして、突然、妹たちがけたたましい声で吠え出した。
 見ると、フェンスの外から大きなわんこが、ウロウロしながら覗いている。
 柴犬とシェパードのミックスかな?
 古ぼけた茶色の首輪。泥とほこりにまみれ、お尻には大きな傷もある。
 まだ治りきっていないカサブタだらけの皮膚が、ものすごく痛そう。
「ごはん、食べてないのかなぁー」
 痩せた大きな身体は骨と皮ばかりで、鋭い目で見られるとドキッとするほどコ・ワ・イ。

「みんな静かにしなさーい、可哀想でしょうワンワン吠えちゃ」
 と、お母ちゃんは言いながら、そのわんこを覗き込み、
「あなたはどこの子? 捨てられちゃったのかな? それとも迷子? そう、そうなの、おなかすいてるのね。今ごはん持って来るから待っててね」
 と、わんこは何も言っていないのに、勝手にしゃべって、勝手に答えている。

 お母ちゃんは、「ねぇー、ポーちゃん。この子、捨てられて野良犬になっちゃったのかな?……なんか、すごく苦労してそうで可哀想だよね。見かけが怖そうだから、なかなか飼ってくれる人、見つかんないよねー……どうしよう?」
 と、私に相談してきた。

「お母ちゃん無理だよ。私に相談されても、私がこの子の面倒見るわけいかないし、お散歩だって連れて行けないもん」
「そうだよね。ポーちゃんがお散歩に連れて行ったら、逆に引っ張られちゃうね。でも、それにしても伊豆高原は、なんでこんなに捨て犬が多いんだろう。犬とか猫とかこういう動物たちは、人間が最後まできちんと面倒見なきゃいけないのに、無責任すぎるよね。別荘に遊びに来てて、飽きたからと置いて行ってしまったり、この前みたく子犬と一緒に母犬まで捨てて行っちゃうんだものね。捨てられたあと親子わんこがどうなるか、わかりそうなのに……」

「お母ちゃん、その捨てられた親子わんこは、どうなっちゃったの?」
「可哀想にね。発見した人から聞いたんだけど、お母さんわんこは山の木に繋がれてしまったから、そこから動くことも出来ず、なんにも食べれなかったんだろうね……結局、おっぱいも出なくなって、子犬たちは餓死していたんだって」

「餓死って?」
「何日も何日も、ご飯が食べれなくて、栄養失調で死んでしまうことなんだよ。のどがかわいても、お水だって飲めないんだよ。辛かっただろうね」
「うん。私だったら、絶対に我慢出来ないと思う」
「子犬たちは、よほどおなかがすいていたんだろうね。お母さんわんこのおっぱいにしがみついたまま、全員死んでいたんだって。お母さんわんこは、その死んだ子犬たちを、おなかにしっかり抱え込みながら、かろうじて生きていたけど、病院に連れて行ったときにはもう手遅れで、間もなく息を引き取ったそうなんだ。発見した人もその姿を見て、捨てた人間への腹立たしさと悔しさが込みあげてきて、どうしようもなかったって……」

「そういう残酷な捨て方をした人間は、警察とか裁判所とかで探し出して刑罰を与えればいいのに!」
「本当にそうだね。ポーちゃんの言うとおり、わんこたちと同じ目に合わせればいいのよ。自分たちも同じ苦しみを味わえばいいのよ。動物の法律は一応あるけど、人間の事件みたく力は入れてくれないからね」
「犠牲になる動物はいっぱいいるのに! 私たち動物は、良い飼い主さんに巡り逢えることを、祈るしかないんだね……」
「わんこたちは、どんな飼い主さんでも必死で「捨てないで!」って訴えているのに」

 お母ちゃんと私が、今、心の中で思っていることは同じなのだろうか?
 しばらくの間、ただジィーッと、遠くを見つめていた2人でした。

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サンロードポチ母

Author:サンロードポチ母
伊豆高原、大室山の近くプチホテルサンロードは、1100坪の敷地を全て愛犬のために開放したペット同伴のリゾートホテルです。
サンロードポチ母のわんこ愛情物語です。

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